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From:村中大祐

息を聴くという習慣。

これに気が付いたのは
実は声楽のコンクールの時のこと。

イタリアのトレヴィーゾ歌劇場で行われた
トーティ・ダル・モンテ・オペラコンクール。
ここの指揮者部門で優勝した翌年
同コンクールの歌手の部門を見学する機会に恵まれた。

このまさに「世界的な」オペラコンクールに
どんな歌手たちが来ているのか?を知るために
ヨーロッパ中からマネージャーや劇場主が集まって来る。

ここで名を挙げることは、ある意味大きなチャンスだ。
うまくすれば、ヨーロッパの様々な国の歌劇場へ
デビューする切符が手に入るのだから。

私の知るかぎり、かなりの数の世界的な歌手が
このコンクールを通じて輩出された。
まさに世界のオペラ座への登竜門だ。

日本からの参加者もけっして少なくないのだが
日本人の歌手の舞台上での動きが
私には当時から気になっていた。

声の問題ではなく、舞台に上がるまでの動きだ。

名前を呼ばれて「堂々と」舞台に上がる歌手が
日本人には少ない。
何故なのか?

多くの日本人歌手たちは
小走りにピアノの前までやって来る。
しかも前傾姿勢で急いでいるのが
聴衆にもハッキリわかる。
それでは女中の役や小間使いの役をやるのが精いっぱい。
とてもオペラのコンクールで賞を取るのは無理に見える。

だが意外にもこう言った歌手たちが多いのだ。
日頃はすごく自信満々なのだが
西洋社会のなかに入ってみると
突然自信がなくなったかのように見える。

同じ光景を日本の社会のなかにも
沢山みることができる。

例えば横断歩道を渡る時。

外国では多くの人が割に横断歩道を渡るのが速い。
でも別に小走りに歩くわけではない。
悠々と歩きながら、でもテンポは速いのが常だ。

日本人の場合、相手(車の運転手)を待たせているのが
気になるのか、懸命に速く渡ろうとするが
その時多くの人が前傾姿勢なのだ。

でも問題は、決して速く通り過ぎるように見えないことなのだ。

本人は一生懸命だが
身体に無駄な力が入って
結果的には速く渡ろうとしても
何故か遅く感じてしまう。

日本人も、もっと堂々と速く渡ることはできないか?

外国人にはできて、日本人にできないわけはないのだ。

日本人は「パーフェクト」という言葉が好きだ。
でもその意味はミスがない、と同義に近いように思う。

その考え方はおそらく社会が要求するのだろう。
「間違いがあってはならない」というストレスを
当たり前のように受け入れている社会のなかでは

大事なところで「息が上がる」のも仕方がないのかもしれない。

そしてこの息が上がることは、昔から日本で
極めて盛んに戒められてきたことからして
多分日本の古来からの伝統なのではないのか。

気を下げるために「道」を嗜む。
それはすべて「社会のストレス」が原因で
生まれてきたものなのではないのか。

少なくとも舞台の上で「ミスなし」ほど
つまらないものはない。

小さなミスは味わいである。
そう思いながら悠々と時を過ごし
本質的に一番大事なことと向き合える社会。

音楽でミスがない社会など
何の面白味もない、くだらない社会である。

堂々とミスをしてみせよ。
そのミスを聴くもが気付かぬほど
素晴らしい「なにか」を表現できれば
はじめて舞台の上で「いきる」ことができる。

日野原氏が100歳を過ぎて他界されたが
同じく99歳でウィーンのコンツェルトハウスで
リサイタルを開いた
かつての大ピアニスト、ミエチスラフ・ホルショフスキーは

ウィーンの聴衆の前で
シューマンのアラベスクの音がわからなくなったことがある。
私も偶然その場に居たのだが

彼はその時腕を天に向かって放り出し
「くそったれ!忘れた!」と言って
満場の聴衆を笑わせ

「もう一度最初から!」と言って大喝采を受けた。
2度目は見事に弾きおおせたが
年寄りの社会における効能とは
そう言った「完璧でない」ものに
「味わい」があることを
生きて示して見せることのように思う。

そこにはシャルム(魅力)やゲヌス(愉しみ)が
満載である。

人生を生き切った人間は
かくも美しい。

コンクールを見ながら当時
そんなことを感じて
日本人という民族が
ある意味「幸せ」というものを
「正確さ」や「生真面目さ」とは
違うところに見出せるなら

もっと「豊かさ」に溢れる社会になるのでは?
と思ったのだった。

これからの高齢化社会のなかで
日本の社会自体が
「ミスを受け入れてそれを栄養にする」くらいの
おおらかさがあれば

きっと幸せな場を築いていけるのではないか。
あれから20年、ずっと思い続けている。

おい、日本よ。
おまえ、少しは変わったか?

今日も素敵な一日を!
横浜の自宅より

村中大祐

追伸:9月3日15時@BUKATSU-DOで「音のソムリエ」茶会開催します。トップページに詳細があります。

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